(陵鉄ですが鞍智→鉄生のSSです)





■恋心■






                                                  BY 槻也








「お疲れ様!乾杯」

周囲からサラリーマンの声が聞こえる。
大学から程近い居酒屋で鉄生はビール片手につまみを口に放り込んだ。
目の前には珍しく鞍智が座っていた。

「お前と飲むの、久しぶりだよな」
「あぁ、お互いに忙しいからな」

鞍智もジョッキに入ったビールを飲む。以前の彼はイメージ通りの下戸でビール一杯で
顔を真っ赤にしていたものなのに、今の鞍智からはそんな様子は全く感じられない。

見た目だけじゃなく中身も色々変わったんだな・・・
鉄生は感心して鞍智を見つめた。

「惚れたか?」

突然の鞍智の質問に鉄生が咽せる。

「ば・・馬鹿か・・・」
「つれないな、岩城。」

鉄生はドンドンと胸を叩き呼吸を整えようとした。
以前鞍智に言われた言葉を思い出す。





■■■■■





鉄生が盟央大の勤務医になる数ヶ月前

見違えるほど心身共に成長した鞍智がREDに戻ってきた。
しかし久しぶりの再会をゆっくり喜ぶ暇もなく数日が過ぎ、その日も
外来やら緊急の手術やらでお互い慌ただしく働いていた。
鉄生がやっと一段落ついた頃にはすっかり日も暮れ、ほとんどのスタッフは帰宅していた。
丁度鞍智も最後のカルテをまとめ終え白衣を脱いでいる。

「岩城、ちょっと話したい事があるんだけど・・・」
「?じゃぁどっか飯でも食いに行くか?」
「いや、空いてる診察室あたりで・・・」
「そっか?」

私服に着替えた鉄生はきょとんとした顔で鞍智の後を着いて行った。
誰もいない診察室の電気を付けると鞍智は診察台に寄りかかり鉄生に向き直る。
やけに真剣な顔で見つめる鞍智に鉄生は困惑し彼の言葉を待った。

「岩城・・・おれ・・・」
「?」
「・・・えっと・・・あぁ・・・」

頭を掻きむしりイライラとしたかと思うと自分の頬を打ち気合いを入れ直している。
ゆっくりと深呼吸をすると勢いよく鉄生の肩を掴んだ。

「好きだ。」
「はぁ!?」
「岩城、お前が好きだ!」
「何血迷ってんだよ・・・」
「俺は至って真剣だぞ。」
「い・・いや・・・そう言われても・・・俺は男だし・・・」
「関係ない!陵刀先生だって男だろ!」

陵刀の名前を出され、ぎょっとして後ずさる鉄生に鞍智は自分に引き寄せ胸に抱いた。

「こ・・の・・馬鹿ぢから!!」
「ずっと好きだった。イラクに行く前の日ひどく後悔したよ。死ぬ前に告白すれば良かったって。」
「何言ってるんだよ!お前は生きて帰ってきたじゃねェか!!」
「あぁ、だから今、お前に気持ちを伝えてる。もう後悔はしない。」
「いや・・・そうじゃなくて・・・」
「そうじゃなくて何だ?」

なんとか鞍智の腕から逃れようとするがビクともしない。
鞍智の顔が鉄生に近づく。

ダメだダメだダメだダメだ!

「その辺で止めといてくれる?」

突然二人しかいないはずの部屋に第三者の声が響いた。
落ち着いた大人の男の声。
聞き慣れたその声は張り上げていないのにひどく威圧感がある。

「陵刀!」
「・・・陵刀先生・・・」

鞍智から一瞬力が抜けた隙に鉄生は腕から逃れた。

「鞍智君、鉄生君には手を出すなって言ったよね?」
「えぇ、でもプライベートな事なので指示には従えません。」

珍しく鞍智が陵刀に反抗する。

「鉄生君も!油断するなっていつも言ってるでしょう?」
「うるせぇ!」
「ワニも押さえる鞍智君の力で押し倒されたら鉄生君なんかすぐに手込めにされちゃうよ!」
「いきなりそんな陵刀先生みたいな無体な事しません・・・」
「ほら見ろ!」
「まったく、馬鹿さんさんだから。鞍智君だって”男”なんだよ」

何故か鉄生と陵刀のケンカに発展していく。
自分を無理矢理抱いておきながら、男の自分の体をこんなにしておきながら勝手な事を
言う陵刀に鉄生もヒートアップしていった。
鞍智を庇うワケじゃないが陵刀の好きにばかりさせるのも納得がいかない。

「俺は諦めません。」
「鉄生君は僕の恋人だ。」
「お前ら勝手に話しを進めるなよ!」

結局誰も引くことなく、その日はうやむやに別れる事となった。











翌日。

二科には何とも言えない重い空気が流れていた。
心配する看護師達を誤魔化してはいるが明らかに3人の様子はいつもと違っていた。

「あれ?陵刀の奴は?」

いつもは二科のデスクで下らない本を読んで仕事をほったらかしている陵刀の姿が見えなかった。
昼飯にはまだ早い時間だ。

「陵刀先生なら先程鞍智先生と屋上に行かれましたよ。」

まさか・・・

嫌な予感が鉄生の脳裏を横切る。
2人ともいい大人だ。殴り合いのケンカなんてしないはずだが。

慌てて鉄生は階段を駆け上がる。
屋上に通じる扉を開けようとしたときそれは鉄生が手を掛けるより早く開いた。

「あれ?鉄生君。」
「鞍智は?」
「あぁ、心配してきたの?大丈夫だよ、外にいるから。」

陵刀越しに外を見ると鞍智が立っていた。

「ほら、行ってあげなよ。」
「いい・・のか?」

陵刀は小さく苦笑すると医局へと戻って行った。

「あれ?岩城、どうしたんだ?」
「陵刀と何話してたんだ?」

鉄生は屋上に出ると鞍智に歩み寄った。

「なぁ岩城。前にも話したけど俺はイラクで、戦地で色々なものを見て学んだ。
命が如何に儚く弱いものか。」
「あぁ。」
「その中で必死になって生きている。もちろん人も同じだ。命があるからこそ
動物たちを一匹でも多く救えるし、誰かを好きになれる」
「・・・」
「俺はイラクに行く前、お前に告白しなかった自分に後悔した。でも心の何処かで
まだ生きて戻れる事を当たり前に思う気持ちが残っていたんだと思う。死ぬはず
ないって。帰ってこれるはずだって・・・」
「鞍智・・・」

鉄生の言葉を遮り鞍智は話しを続けた。

「俺が死んだら陵刀先生よりお前の心を支配できるかもなんて馬鹿な事を思ったよ。
でも違ってた。本当に死にそうになったときそんな思い出では嫌だった。」
「当たり前だ!!」
「あぁ。やらずに後悔するのは嫌だ。告白せずに後悔するのも。」
「・・・ごめん」

鞍智が鉄生の頭をポンポンと叩く。
鉄生はまっすぐに鞍智を見つめ返した。

「お前の真剣な気持ちに俺は答えられない。適当な事も言えない。」
「あぁ、もちろんだ」
「俺は陵刀が・・・」
「うん。でもアタックはさせて貰うよ?」
「え?」
「さっき陵刀先生に言われた。岩城はまだ陵刀先生のモノじゃないから可能性はあるって。」
「陵刀が?」

鞍智の言葉に鉄生の顔色が曇る。明らかに動揺している姿に鞍智が小声でつぶやいた

「そんな心配そうな顔するぐらいなら・・・」

「?何か言ったか?」
「いや、何にも。とにかく俺も簡単に諦めきれるほど簡単な気持ちじゃないんだ。」
「・・・ど・・どう返して良いか分からないけど、鞍智の事は嫌いにはなれない。」
「罪な事言うなぁ・・・」
「俺、ちょっと用事があるから行くな・・・」

言い終わらないうちに手を振りながら鉄生は屋上を後にした。

「・・・失敗したな・・・」

一人鞍智がぼやいた。




鉄生は裏庭の建物の陰でサボっていた陵刀を捕まえた。
茶化して誤魔化す陵刀を問いつめるように立ちはだかる。

「・・可能性はあるってなんだよ!」
「鞍智君から聞いたの?」
「散々俺の意見なんか無視して、今度は鞍智に発破かけたり・・・」
「・・・」
「俺を馬鹿にしてるのかよ!」

今にも泣きそうな顔で鉄生は捲し立てた。

「鉄生君・・・」
「もう、お前なんかと・・・しない・・・」
「え!?て・・鉄生君?」
「お前なんか嫌いだ・・・」

走り去ろうとする鉄生の手を掴み引き寄せ陵刀が強引に唇を重ねる。
同時に鉄生を壁に磔にするように押さえ込み自分の下半身を押し当てた。

「止めろよ、馬鹿野郎・・・」
「止めないよ。鉄生君が全部僕のモノだって実感できるまで。」
「・・・」
「鞍智君になんか絶対にあげないよ。だから鉄生君覚悟してね?」

もう一度二人は深く唇を重ねた。









■■■■■










「俺は今でも諦めてなんていないぞ。」
「・・・おいおい」

鉄生が苦笑いする。
やっぱり今でも鞍智は大切な仲間であり友人だ。
恋愛感情でみれない事も変わらない。
正直自分はすでに一人の男に何もかも奪われ、その事に安らぎも感じている。
卑怯だが鞍智にはそんな自分の気持ちを言えずにいた。

「敵がどんなに手強くてもね。」

全てを見透かしているように鞍智が笑いながらそう言った。

「好きな人がいてもこの”恋心”は止まらないんだよ。」
「お前・・・意外と恥ずかしいな・・・」
「あははっ純愛だろ?」




END



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